不貞行為慰謝料の「請求金額」と「支払金額」
はじめに
不貞行為慰謝料の相談を受けた時、相談者の多くが一番関心を持っているのが、「慰謝料をいくらもらえるのか」または、「慰謝料をいくら払わなければならないのか」という点です。
そこで、不貞行為自体には争いがなく、慰謝料金額が争いになっている事案で、弁護士が交渉する場合や、裁判になった場合の慰謝料金額の決まり方について、みていきたいと思います。
不貞慰謝料の金額は客観的に決まるのか
不貞行為は不法行為(民法709条)にあたるので、損害賠償請求権が発生します。
通常、不法行為に基づく損害賠償請求をする場合、請求金額はある程度客観的に決まります。
例えば、交通事故に遭ってケガをしたり、乗っていた車が壊れた場合、被害者は加害者に対して治療費や修理費の賠償請求をすることができます。
この場合、治療費や車の修理費は、病院や修理工場の領収書の金額で客観的に決まります。被害者の気持で金額を変えてしまうことはできません。
ですが、慰謝料は、被害者の心が受けた損害について、本来、お金に置き換えることができないのに、ある意味、無理やり金銭に置き換えるものです。
そのため、慰謝料金額は、病院の治療費や車の修理費と違い、客観的に計算することはできません。
交通事故にあった際の慰謝料のように、ある程度客観的な計算方法が確立されている類型もありますが、不貞慰謝料は計算方法が確立されていません。
ですから、不貞慰謝料の「請求金額」は最終的には被害者の気持で決まることになります。
「請求金額」と「実際の支払金額」の違い
このように、不貞行為に基づく慰謝料請求をする場合、請求金額は被害者の気持しだいという面があります。
ですから、これまで受けた相談で、弁護士としての感覚では「被害者からあまりに高額な請求を受けているのではないか」と思うケースですとか、反対に「被害者に支払った慰謝料は高額すぎるのではないか」と思う話を聞くことは珍しくありません。
もっとも、そのようなケースでは、事件の解決を当事者だけで行っていて、弁護士や裁判所は関与していない場合が多いと思います。
では、弁護士を代理人として交渉する場合や裁判になる場合、どのくらいの金額を請求するでしょうか。
この点について、不貞行為慰謝料の場合、事案にもよりますが、経験的には300~500万円を「請求金額」とすることが多いと思います。
それでは、慰謝料請求をした場合に、「実際の支払金額」はどうなるのでしょうか。
まず、当事者間だけで解決する場合、良くも悪くも「相場」がありません。
そのため、先ほども述べたように、当事者の気持や事情しだいで、極めて低額で解決したり、反対に極めて高額で解決することもある印象です。
では、弁護士が代理人として交渉したり、裁判になる場合はどうでしょうか。
この場合、弁護士が考えるのは、「仮に裁判で判決が下された場合、いくらくらいの金額が認められそうか」だと思います。
そして、その予想額を基準に交渉をしたり、裁判を進めることが多いでしょう。
なぜなら、慰謝料金額についての交渉が決裂した場合、通常、被害者は裁判を起こすことになりますが、裁判の結果、判決で認められそうな金額以上の金額を支払うメリットが加害者にはないからです。
先ほども述べたように、弁護士は300~500万円を請求金額とすることが多いので、支払金額の上限は300~500万円の場合が多いでしょう。
ですが、交渉の結果、示談が成立した場合や、裁判をした場合の実際の支払金額は300~500万円より相当低額になる事件が多いように思います。
なぜなら、裁判の結果、300~500万円を支払うよう命じる判決が下されると予想される事件は少ないからです。
このように、慰謝料の「請求金額」と「実際の支払金額」は必ずしも一致しません。
ですから、不貞相手の配偶者や弁護士から高額の慰謝料支払いを求める手紙を受け取った場合、「請求金額をそのまま支払わなければ。」と考える必要はありません。
不貞行為慰謝料を請求された方の場合、交渉や裁判をすることで、当初、請求された金額から低額の支払いで解決できることが多くあります。
反対に、被害者の方が、加害者に対して不貞行為慰謝料を請求する場合には、請求した金額をそのまま支払ってもらえるわけではないことを念頭においておく必要があります。